イルル

異世界のドラゴンである彼女は、赤い巻き髪を二つ編みにし、黒いマントを無造作に纏った小柄な少女の姿に変身します。その姿は小林さんが嫉妬するほどの巨乳を誇ります。人間界では、ワイドサイズのTシャツとニーソックス、ショーツだけを身に着けて過ごすことが多いです。ドラゴンの姿に戻る際には、瘴気のようなものが立ち上がります。

彼女は「混沌勢」の最過激派に属し、破壊を目的に人間界に現れました。トールと戦闘になり、街を庇うトールを一方的に攻撃しますが、小林さんに食べ物で懐柔されたエルマが助けに入り、形勢が逆転して敗北します。その後、トールやカンナの周囲を嗅ぎまわるうちに、小林さんに興味を持ちます。最終的に小林さんに諭され、心を開いて3人目の居候として小林さんのもとに住み着くようになります。

彼女は生まれ育った環境や周囲の価値観により、盲目的に破壊や殺戮を繰り返していましたが、実直で裏表のない性格です。体格的にはカンナとさほど変わりませんが、年齢的にはトールとほぼ同年代で、「子を産み育てる歳」のドラゴンです。精神的にはトールほど成熟しておらず、人間界での平穏な生活を得てからは子供っぽい一面を見せることもあります。カンナより年長ですが、カンナからは同年代扱いされており、本人も気にしていません。

彼女は自分の内面と向き合い、自省や先を見据えることができる聡さや、努力で補う真面目さも持ち合わせています。人間界で暮らし始めてからは問題を起こすことが少なくなり、一般常識も次第に身に着けていますが、羞恥心への理解は欠けています。タケトに対してはからかうこともあります。

ドラゴンとしての実力は高いですが、トールやエルマには劣ります。「炎」をエネルギーとしており、人間界ではガスコンロなどから火を摂取して魔力に変換しています。攻撃手段として「炎酸」を用い、トールが張った結界を跡形もなく消し飛ばす破壊力を持っています。一方で魔法は不得意で、人間態への変身や認識阻害もうまく扱えませんが、努力を重ねて少しずつ上達しています。衣服を嫌い、野良猫と日向ぼっこを楽しむなど、野性的でネコのような一面もあります。故郷ではカンナと共にいたずらをしており、作者は「カンナとは似つつも経験したことが違うとこうなる」と語っています。

人間界での生活を始めた当初は破壊行為をしようとした後ろめたさから仲間内以外に交友を持ちませんでしたが、人間の子どもである才川との邂逅を経て屈託のない笑顔を取り戻し、外の世界にも目を向け始めます。ほどなくしてトールからの圧力と助力を受けつつ、駄菓子屋でのアルバイトを始め、初めは不審がっていたタケトからも誠実な仕事ぶりと子どもへの想いを認められ、親しくなります。

幼少期は人間の子どもと遊んでおり、そんな彼女の姿を見た両親も人間との融和を考え始めていましたが、人間との争いで両親が亡くなり、以来人間を敵だと刷り込まれ、子供らしく過ごすことを許されずに育ちました。それでも本心では人間と仲良くしたがっており、仲良くしていたころの思い出が踏みにじられ、報復戦の中でその子どもたちまでもが殺されてしまったことは、今なお彼女の心に深い傷となっています。人間界で手にした小林さんや子どもたちとの穏やかな時間を通じてこれまでの生き方を見つめ直し、今後の身の振り方として「混沌勢」を抜ける道を思い描いています。

スピンオフ作品『カンナの日常』では、カンナや才川の輪に加わり遊んでいる姿が見られます。『エルマのOL日記』では、単身で衣服を買いに訪れた先でエルマ達と遭遇し、人間のファッションについて共に試行錯誤しています。